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甲府地方裁判所 昭和35年(行)2号 判決 1961年10月19日

原告 藤巻義次

被告 甲府市長

主文

被告が昭和三〇年三月一九日附でなした訴外菊地原午郎外三名に対する換地予定地指定処分の無効確認を求める原告の訴は、これを却下する。

被告が昭和二九年一〇月二日附でなした訴外菊地原録郎外二名に対する換地予定地指定処分並びに同日附原告に対する換地予定地指定処分の各無効確認を求める原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

(原告の請求趣旨)

(一)  被告が昭和二九年一〇月二日附を以て原告に対してなした「甲府市百石町二三二番の一宅地一五三坪につき、一三一坪六合五勺を換地予定地として原告に交付する」との換地予定地指定処分は無効であることを確認する。

(二)  被告が同日附を以て訴外菊地原録郎、同八郎、同重郎に対してなした「甲府市百石町三番の三宅地三五五坪四合四勺につき三〇坪二合四勺並びに四四坪二合八勺を換地予定地として同訴外人らに交付する」との換地予定地指定処分は無効であることを確認する。

(三)  被告が昭和三〇年三月一九日附を以て訴外菊地原午郎外三名に対してなした「甲府市百石町三番の三宅地三五五坪四合四勺につき、二二七坪一合一勺を換地予定地として同訴外人らに交付する」との換地予定地指定処分は無効であることを確認する。

(四)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

(被告)

一、本案前の申立

原告の(二)及び(三)の訴を却下する。

二、本案に対する申立

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者の主張

(原告の請求原因)

一、原告は、甲府市百石町二三二番の一、宅地一五三坪を所有するものであるところ、被告は、特別都市計画法に基き昭和二九年一〇月二日附で、右宅地につき換地予定地として、右宅地のうち一三一坪六合五勺を指定し、そのため原告の宅地は二一坪三合五勺減少した。

二、そして被告は、右減歩した二一坪三合五勺の宅地に、訴外福田嘉一郎の減歩分同所二三三番の一宅地のうち七坪七合六勺、訴外浜口永雄の減歩分同所二二八番の四宅地のうち一〇坪二合八勺、並びに訴外山梨県町村職員恩給組合の減歩分同所二三〇番の一宅地のうち、三〇坪二合四勺の各宅地を併せ、これを三〇坪二合四勺と四四坪二合八勺とに分け、昭和二九年一〇月二日附で、訴外亡菊地原やすの相続人菊地原録郎らに対し、甲府市百石町三番の三宅地三五五坪四合四勺に対する飛換地予定地として指定し、更に、被告は、昭和三〇年三月一九日附で、菊地原やすの相続人訴外菊地原午郎外三名に、右三番の三宅地三五五坪四合四勺に対する現地換地予定地として、右宅地のうち二二七坪一合一勺を指定した。

三、しかしながら、被告の菊地原録郎らに対しなされた前記各換地予定地指定処分は、つぎの理由により無効であるから、右の処分と一体をなす原告に対する前記換地予定地指定処分も亦無効である。

(一) 被告は、昭和二三年一二月一四日附で、菊地原やすに対し、甲府市百石町三番の三宅地三五五坪四合四勺につき、換地予定地として、現地に二一九坪四合五勺を指定した外、なお原告らの減歩分宅地六七坪三合二勺を飛換地予定地として指定した。

(二) ところが右の換地予定地指定処分当時菊地原やすは死亡しており、三番の三宅地三五五坪四合四勺は、訴外菊地原午郎、同録郎、同八郎、同重郎において相続していたものであるが、その後同訴外人らは、昭和二六年二月二〇日右宅地のうち一五〇坪八合を、同番の四として分筆の上、訴外株式会社山梨中央銀行に売渡し、更に昭和二八年八月一八日残余の宅地のうち五〇坪を、同番の五として分筆の上、訴外徳光教甲府教場に贈与したので(但し、この間菊地原午郎は昭和二六年八月一〇日死亡し、同人の持分は菊地原八郎、同道子において相続している)、昭和二九年一〇月二日当時菊地原録郎らの所有する右三番の三宅地は、一五四坪六合四勺にすぎなかつた。

(三) しかるに、菊地原録郎らに対する昭和二九年一〇月二日及び同三〇年三月一九日附各換地予定地指定処分は、いずれも換地せらるべき土地(従前の土地)を、三五五坪四合四勺とし、この土地を基準として換地予定地を交付しているが、しかし同人らが昭和二九年一〇月二日当時所有していた宅地は、一五四坪六合四勺にすぎないのであるから、従前の土地は右一五四坪六合四勺であつて、これを基準として換地予定地の指定交付がなさるべきである。

ところが菊地原録郎らは、昭和二九年一〇月二日附換地予定地指定処分により三〇坪二合四勺と四四坪二合八勺合計七四坪五合二勺の飛換地予定地を、更に昭和三〇年三月一九日附同処分で、二二七坪一合一勺の現地換地予定地を交付されているので、従前の土地二五四坪六合四勺に対して三〇一坪六合三勺もの不当に膨大な換地予定地の交付を受けていることになり、前記一、記載の原告に対する処分との差異が著しい。そればかりか、右処分における従前の土地、右三番の三宅地三五五坪四合四勺は、前記(二)のように菊地原録郎らから株式会社山梨中央銀行外一名に分筆譲渡されているので、右宅地については菊地原録郎らの外右銀行外一名も亦所有権をもつており、登記簿を調査すればこれが明らかであつた。しかるに被告は右処分に当り、公簿の調査義務を懈怠し、右銀行外一名の所有権者が存在しないものとしてこれを無視し、菊地原録郎らに対してのみ、従前の土地を三五五坪四合四勺とし、右処分をしたことは同人ら個人の利益にのみ奉仕し、公共の福祉に反するもので憲法第二九条に違反する重大且つ明白な瑕疵があり無効である。

四、仮りに菊地原録郎らに対する換地予定地指定処分が無効でないとしても、原告に対する前記換地予定地指定処分は、録郎ら或いは近隣の者らに対する同処分に比し、土地減歩率からみて著しい差異があり、都市計画法第一二条第二項により準用される耕地整理法第三〇条第一項の規定に違反するから当然無効である。

五、更に被告の原告に対する前記処分は、従前の土地の地積を実測によらず、公簿上の地積によつているので違法であり、その瑕疵は重大且つ明白であるから当然無効といわなければならない。けだし区劃整理においては、従前の土地を実測しその実測地積について実測の換地を交付しなければその目的を実現することができないものであり、しかも原告所有の従前の土地は、公簿地積より実測地積の方が大きいのにかかわらず被告は従前の土地の地積を不正確な公簿上のそれに依り、これを基礎として実測地積の換地予定地を交付しているため、従前の土地と換地予定地を対比した減歩率は実際と一致せず合理的根拠を欠くに至るからである。

(被告の本案前の抗弁)

原告の請求趣旨(二)及び(三)の訴は、いずれも被告が訴外菊地原録郎、午郎らに対してなした各換地予定地指定処分の無効確認を求めるものであるから、同訴外人らより右処分の無効確認の訴を提起するは格別、原告において被告が第三者たる同訴外人らに対してなした右処分の無効確認を求める利益がなく、原告に右訴の当事者適格はない。従つて右の訴は却下さるべきである。

(被告の本案に対する答弁)

一、原告主張の請求原因一、及び二、の事実は認める。なお菊地原録郎らに対する昭和二九年一〇月二日附換地予定地指定処分により、同人らに交付した換地予定地のうち、三〇坪二合四勺は、原告主張の山梨県町村職員恩給組合の減歩土地を充て、四四坪二合八勺は、原告、福田及び浜口の各減歩土地の合計実測地積が右四四坪二合八勺であるので、この地積で指定したものである。

二、同三、の各事実のうち、(一)及び(二)は認めるが、菊地原録郎らに対する各換地予定地指定処分が無効であることは否認する。

三、同四、の事実は否認する。

四、同五、の事実のうち、被告のなした換地予定地指定処分は、従前の土地の地積を公簿上のそれに依つていることは認めるが、それなるがため、該処分が違法であることは否認する。

(被告の主張)

一、被告の菊地原録郎らに対しなした各換地予定地指定処分は適法であり瑕疵はない。

被告は、特別都市計画法に基く区劃整理事業施行のため、昭和二三年一二月一四日附で、菊地原やすに対し、原告主張三、の(一)記載の如き換地予定地指定処分をしたが、右処分において同人に交付した六七坪三合二勺の換地予定地は、同じく同日附処分で、原告に対してその所有の甲府市百石町二三二番の一宅地一五三坪の換地予定地として現地に一二七坪二合一勺を、同様訴外福田嘉一郎に対して宅地五七坪の換地予定地として現地に四五坪九合九勺を、訴外浜口永雄に対して、宅地一〇九坪八合八勺の換地予定地として現地に八八坪六合一勺を各指定したので、原告、福田及び浜口において減歩となつた土地の実測地積合計六七坪三合二勺を以て充てたのである。しかるところ、その後減歩率の調整その他周辺土地における換地予定地指定等の関係から、被告は、昭和二九年一〇月二日附を以て前記原告らに対する昭和二三年一二月一四日附換地予定地指定処分を、つぎのように変更する処分をした。

すなわち原告に対しては、その主要の一、記載の如く、従前の土地一五三坪につき一三一坪六合五勺と、福田に対しては、従前の土地五七坪につき四九坪二合四勺と、浜口に対しては従前の土地一〇九坪八合八勺につき九六坪六合と各指定し、しかして菊地原やすの相続人菊地原録郎ら(やすは昭和二二年一月一〇日死亡し、同人所有の土地は録郎らが相続した)に対しては、従前の土地三五五坪四合四匁につき現地換地予定地二一九坪四合五勺を交付した処分は変更なく、ただ飛換地予定地として前記六七坪三合二勺を交付した処分のみ変更し、これを四四坪二合八勺(原告、福田及び浜口が減歩された宅地)、及び三〇坪二合四勺(山梨県町村職員恩給組合所有の甲府市百石町二三〇番の一宅地のうち)と指定した。そして更に昭和三〇年三月一九日附で菊地原録郎らに対して、右の現地換地予定地二一九坪四合五勺を交付した処分を変更し、これを二二七坪一合一勺に指定したのである。

ところで右のような昭和二三年一二月一四日附処分からこれを変更した同二九年一〇月二日附処分の間、菊地原やすの相続人菊地原録郎らの所有する従前の土地である三番の三宅地三五五坪四合四勺は、原告主張三、の(二)記載のように、うち一五〇坪八合が山梨中央銀行に、うち五〇坪が徳光教甲府教場に分筆譲渡されていたのであるが、しかし昭和二九年一〇月二日当時右土地の譲受権利者より被告に対し、その権利移動の申告がなされていなかつたため、被告は、菊地原録郎らを従前の土地三五五坪四合四勺の所有者と思料し、前記変更の処分をしたもので、同人らにのみ不当に膨大な換地予定地を交付したものではない。従つて右処分には重大且つ明白な瑕疵が存するとはいえないし、しかも右処分後、右土地の譲受権利者は、従前の土地の譲受けに応じ、菊地原録郎らに交付した換地予定地をそれぞれ使用収益しており、その既得権利に何等の影響がないので、右処分を無効とすることはできない。

二、原告に対する換地予定地処分自体も適法で何等の瑕疵はない。被告の区劃整理事業は甲府市全体の都市計画に基づき一定の基準に従つて施行しているのであつて、右処分も他の者に対する同処分に比し、原告にのみ格別に不利益を課すものではない。けだし前記一、で述べたように、原告、菊地原、福田及び浜口に対する当初の換地予定地指定処分を変更した処分の結果、終局的に各人の従前の土地に対する減歩率は、原告約一四パーセント、菊地原約一五パーセント、福田約一五パーセント、浜口約一〇パーセントとなつて、原告所有の土地のみ、他に比し不当に減歩されたわけではない。

三、更に原告は、被告のした右の処分は、従前の土地の地積を、実測によらず公簿上のそれによつているので違法であると主張する。しかし被告が公簿上の地積で従前の土地を指定しているのは、特別都市計画法第二八条同法施行令第一一条に基く甲府特別都市計画事業土地区劃整理施行規程第三条の「従前の土地各筆の地積は昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳地積に依る」旨の規定に基いたものであつて、何等の違法はない。

四、以上の如く、原告に対する処分はもとより、訴外菊地原録郎らに対する各処分にも何等の瑕疵はなく、仮りに同訴外人らに対する右処分が無効であるとしても、原告に対する右処分がただちに無効となるわけではないから、いずれにせよ、原告の本訴請求は理由がない。

第三、証拠<省略>

理由

(被告の本案前抗弁について)

一般に行政処分がなされた場合、必ずしも右行政処分の相手方に限られず、相手方以外の第三者においても右処分により違法に権利を侵害され、右処分に関し直接法律上の利害関係があるときは、その第三者たるものは、他人に対する行政処分の無効を即時確定するについて法律上の利益を有するものと解せられる。本件において、被告が訴外菊地原録郎らに対してなした二箇の換地予定地指定処分について、原告においてその無効確認を求める利益を有するものであるかどうか検討するに、まづ被告の同訴外人らに対する昭和二九年一〇月二日附処分は、同訴外人ら所有の甲府市百石町三番の三、宅地に対する飛換地予定地として、四四坪二合八勺と三〇坪二合四勺の二筆の土地を同訴外人らに交付するものであり、しかして右の四四坪二合八勺の換地予定地には、右処分と同時になされた原告に対する換地予定地指定処分の結果、原告において減歩を受けたその所有の同町二三二番の一宅地の一部が含まれていることは、原被告の主張に徴し、明らかである。ところで換地予定地の指定は、その法的性格は兎も角として、従前の土地の所有者及び関係者(権原に基きその土地を使用収益できるもの。)は換地予定地の指定の通知を受けた日の翌日から換地予定地について、従前の土地に存する権利の内容たる使用収益と同じ使用収益をなすことができると共に、従前の土地については、その使用収益をなすことができなくなり、又換地予定地の所有者及び関係者は、換地予定地指定通知を受けた日の翌日から換地予定地の使用収益ができないことになつている(特別都市計画法第一四条)。従つて自己の所有地を換地予定地に指定され、その通知を受けた所有者は、その所有地を従前どおり、所有権者として使用収益することはできないのであるから、他人に対する該換地予定地指定処分が違法であるときは、その効力を争う利益・必要があるというべきである。これによつてみれば、被告が菊地原録郎らに対してした昭和二九年一〇月二日附換地予定地指定処分の無効確認を求める原告の訴は適法であり、右、被告の抗弁は理由がない。

つぎに被告の訴外菊地原午郎ほか三名に対する昭和三〇年三月一九日附処分についてみると、同処分は、同訴外人らの右三番の三、宅地に対し、そのうち二二七坪一合一勺を現地換地予定地として同訴外人らに交付するものであることは、原告の主張より明らかなところであり、右処分により原告は法律上何等利益を害されないから、原告は、その処分の違法であることを云々してその効力を争う利益も必要もない。従つて、この点の被告の抗弁は理由があり、該処分の無効確認を求める原告の訴は不適法である。

(本案請求について)

一、甲府市百石町二三二番の一宅地一五三坪は原告の所有であること、被告が特別都市計画法に基く土地区劃整理事業の施行者として、昭和二九年一〇月二日右宅地につき一三一坪六合五勺を現地換地予定地として指定し、又同日訴外菊地原録郎らに対し、同町三番の三、宅地三五五坪四合四勺を従前の土地として、これに対し三〇坪二合四勺と四四坪二合八勺を飛換地予定地として指定したこと、右四四坪二合八勺の土地には原告に対する右換地予定地指定処分の結果、減歩された原告所有の土地二一坪三合五勺が含まれていること、右三番の三、宅地は、うち一五〇坪八合が昭和二六年二月二〇日株式会社山梨中央銀行に、うち五〇坪が同二八年八月一八日徳光教甲府教場に各分割譲渡されていることは、当事者間に争いがない。

二、原告は、菊地原録郎らに対する右換地予定地指定処分は、処分当時同人ら所有の三番の三、宅地三五五坪四合四勺のうち一部が既に他人に分割譲渡されているので、同人ら所有の従前の土地としては一五四坪六合四勺を余すにすぎないのに、なおこれを三五五坪四合四勺とし、且つ右宅地一部の譲受人たる所有権者の存在を無視してなされたものであるから無効であると主張するので検討するに、特別都市計画法上の換地予定地指定処分は、換地指定がされる迄の暫定的措置として、従前の土地について権原に基づき使用収益し得る者に対して従前の土地についての使用収益を停止させ、換地予定地上にこれと同じ使用収益の権能を付与する処分に止まり、土地関係者に対し換地予定地上に私法上の権利義務の関係を新たに創設する趣旨のものではない。とすれば換地予定地指定処分は、形式上はその当該土地(従前の土地)の所有者に対してなされていても実質的には当該土地そのものを目的とするいわば対物的な処分(物的変動の処分)というべきであつて、たとえ従前の土地が譲渡されてその所有者たる資格が他人に移つているのに、これを誤認し、前所有者に対して換地予定地指定処分がなされたとしても、該処分はたゞちに無効に帰するものではなく、真の所有者において該処分の結果を受容しているような場合においては、有効と解して差つかえなく、たゞ従前の土地の真の所有者は右の処分後も従前の土地の所有権に基き右処分により指定された換地予定地上の使用収益を主張することを妨げられないものと解するを相当とする。しかして本件においては、証人井上英雄の証言並びに弁論の全趣旨によると、被告の菊地原録郎らに対する昭和二九年一〇月二日附換地予定地指定処分は、先に被告が昭和二三年一二月一四日附で録郎らの被相続人菊地原やすに対してなした同人所有の三番の三、宅地三五五坪四合四勺につき六七坪三合二勺の飛換地予定地指定処分を取消し、右の飛換地を四四坪二合八勺と三〇坪二合四勺の二筆の土地に変更したもので、うち三〇坪二合四勺に該る土地は前換地予定地とは別個な場所に定められているが、四四坪二合八勺の土地は前換地予定地六七坪三合三勺の土地をその輪廓面積を縮小したものにすぎないこと、しかるに昭和二三年一二月一四日附処分と同二九年一〇月二日附処分までの間に、各処分の対象となつた三番の三宅地三五五坪四合四勺の従前の土地がその一部を山梨中央銀行外一名に分割譲渡されたため、右宅地全体をみれば右宅地は従前からの所有者菊地原やすの相続人である菊地原録郎らの外、山梨中央銀行外一名がその一部づゝを所有する状態のところ、右の同二九年一〇月二日附処分は、その対象である従前の土地をなお同二三年一二月一四日附処分における従前の土地と同一としたまゝ、たゞ処分の名宛人を菊地原録郎らに対してのみなしたものであるが、しかし右の同二九年一〇月二日附処分の後においても、菊地原録郎らと共に、山梨中央銀行外一名の所有権者(もしくは該所有権者からの右処分後における譲受人)が、従前の土地である三五五坪四合四勺の各所有関係の割合に応じ、右処分で指定された換地予定地をそれぞれ平穏に使用収益していることが認められるから、菊地原録郎らに対する昭和二九年一〇月二日附処分は、当初の三番の三、宅地三五五坪四合四勺を対象としての換地予定地の指定であつて、当然無効とすることはできない。従つて右処分の無効を前提とし、原告に対してなされた同処分も当然無効であるとする原告の主張は理由がない。

三、つぎに、原告は被告の原告に対する換地予定地指定処分は、近隣者に対する同処分に比し減歩率が不公平であつて耕地整理法第三〇条第一項の規定に違反し、無効であると主張する。右処分における原告の従前の土地地積が一五三坪であり、これに対応して指定された現地換地予定地地積が一三一坪六合五勺であることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第三ないし第六号証の各一、二及び証人井上英雄の証言により近隣者に対する換地予定地地積をみれば、訴外福田嘉一郎に対しては、甲府市百石町二三三番の一、宅地五七坪に対応して現地に四九坪二合四勺を、訴外浜口永雄に対しては、同町二二八番の四、宅地一〇九坪八合八勺に対応して九九坪六合を、又訴外菊地原録郎らに対しては、同町三番の三、宅地三五五坪四合四勺に対応して現地に二二七坪一合一勺、飛地に二筆併せて七四坪五合二勺、合計三〇一坪六合三勺を各指定していることが認められるので、以上の事実から各人の換地予定地地積に対する従前の土地地積の減歩率をみると、原告は一三・九六パーセント、福田は一三・六二パーセント、浜口は九・三七パーセント、菊地原は一五・一四パーセントの各割合であると認められるから、原告にとつてのみ著しく不利益な減歩率ということはできないし、その他原告に対する処分に著しい不当は認められない。従つて右処分は、耕地整理法第三〇条の適用について土地区劃整理施行者である被告に許される裁量の範囲を超えた違法な処分と解することはできないので、原告の主張は理由がない。

四、更に原告は右の処分が原告所有の従前の土地地積を公簿上の地積を基準として換地予定地を指定しているから違法であると主張する。換地予定地の地積が原告所有土地の土地台帳面の地積を基準としたことは被告の認めるところであるが、元来区劃整理については、従前の土地の地積を実測地積によつて計画を樹てることが合理的処理であろうが、整理が広い地域に亘り、しかも急速に整理施行を要する大量の行政処分をする場合にあつては、従前の土地を一筆毎に実測して計画を樹立遂行することは計画の実施上、著しく困難を伴うものと認められるから、かかる場合には、公簿たる土地台帳地積を一応の基準とすることを定めることはやむを得ない措置というべきである。しかして被告が特別都市計画法施行令第一一条に基いて制定実施した甲府特別都市計画事業土地区劃整理施行規程(昭和二二年五月告示第三二号の一)第三条第一項は、換地交付の標準となる従前の土地各筆の地積は昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳地積による旨規定する(原告所有の土地に対する換地予定地指定の基準たる地積も右規定に基き昭和二〇年八月一五日現在の土地台帳記載の地積によつたものと解される)一方、右規程第三条第三項において、土地所有者は土地台帳地積に百分の一以上の差異があると認めるときは、整理施行者の別に定めるところにより、土地台帳地積の訂正申請をなし査定を受けることができる旨を定め、土地台帳地積が実測地積より少ない土地所有者に対する一種の救済規定を設けているのであるから、従前の土地の地積を土地台帳記載の地積によつたのは、換地予定地地積算定の規準としたにすぎないもので、これをもつて直ちに違法視すべきではない。従つて原告の主張は排斥を免れない。

五、以上の次第で被告が昭和二九年一〇月二日附で菊地原録郎ら並びに原告の各土地に対しなした各換地予定地指定処分はいずれも有効であつて、これが無効確認を求める原告の請求はいずれも理由がないから失当である。

(むすび)

よつて、被告が昭和三〇年三月一九日附で訴外菊地原午郎らに対してなした換地予定地指定処分の無効確認を求める訴は不適法としてこれを却下し、昭和二九年一〇月二日附で訴外菊地原録郎ら並びに原告に対してなした各換地予定地指定処分の無効確認を求める請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 須賀健次郎 柳沢千昭 坂詰幸次郎)

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